拡張版ミヤノ

140文字に収まりきらなかったパッションをくらえ

聖杯を巌窟王に取られた話

うちの巌窟王に聖杯マークがついた経緯をSSみたいにしたやつだよ〜っ
ナチュラルにエドぐだ


獣との戦いは勝利で終わった。果たされた人理修復。手にした2つの聖杯を持ち、これらを一先ず倉庫にしまうべくカルデアの廊下を歩く。
藤丸立香は悩んでいた。さてアマデウスをレベル90にするぶんは確保して、そのうえであと1人ぶん余ったな…。どうしようかと考えて、周囲への注意をおろそかにしていた彼の手から、その杯を奪い取るのはさぞ簡単であっただろう。ひょい、といった気軽さで。聖杯は藤丸立香の手から巌窟王エドモン・ダンテスの手に渡り、そうしてすぐに消えて無くなり、そこにはひときわ霊基の磨かれたサーヴァントがいるだけとなった。
「…流石にちょっと唖然としちゃうよお」
「見れば分かる。如何にも“面食らいました”という面白い顔をしているぞ?鏡が見当たらないのが残念だ」
「ンン〜〜〜ッ おまえさあ…」
このサーヴァントとは大変長い付き合い…ではないものの、共に監獄島を脱し、共に特異点を駆け、共に人理を修復した。つまり随分と濃い付き合いである。お互いにお互いを一心同体であると称することに躊躇いはないし、その言葉の通り、お互いを十二分に理解していた。
「分かってるけどさあ〜っ 流石に聖杯は突然勝手に取られるとビビるんだよなあ…!」
「ほう?分かっているとはどういうことか。俺が何故、無断でお前から聖杯を奪い、そしてその場で自身に取り込んだのか。お前は俺に聞かずして、その理由が分かると言うのか?」
「…気付いてないかもしれないけどぉ、人を煽る時の大げさ加減が作家陣の奴らとそっくりだよ」
「クハハ!成る程そうか、しかし子は親に似るものだ、創作物と作家もそれに近いのだろうよ。仕方あるまい、諦めて大袈裟に煽られるがいい」
好き放題を言われる事は癪であるものの、この上機嫌なサーヴァントがそも上機嫌であると分かること。それほどまでに自分がこの相手を見てきたこと。それが何ともくすぐったかった。
「さあ答えるがいい。お前は何を分かっている?少なくとも、今!俺がたいそう上機嫌である事が筒抜けているのなら、お前に間違いはあるまいよ」
「ほんっと性格の悪い相棒ができちゃったなーって思うよねえ」
「…そうだよ、分かってる。きっと俺は、悩んだ末にその聖杯はお前にあげただろうし。理由は…戦力、はもう充分だから、単純に…好きだから、感謝してるからで。…そしてそれがお前に筒抜けだからこそ、お前が勝手に聖杯取って使った、っていうのが、全部、分かってるって、言いました!おしまい!」
もうほんとにお前に迂闊な発言するのやめたい!なんて言って。怒っている様に見せたいけれど、どの道それすらアッサリと看破して、本当は照れているのだろうと見抜かれる仲だ。
「ク、ハハ、ハハハハ!!上出来だ!!どうやらお前の言う通り、お前は“分かって”いたらしい!!そうとも、筒抜けていたぞ。『巌窟王巌窟王』と、お前が何度も呼ぶものだから、何かと思えばご覧の通りだ!もはや許可などは不要と見た。一刻も早く応えたまでよ」
こんなのどれだけ恥ずかしいだろう。なにせ彼もまた同じなのだ。藤丸立香がエドモン・ダンテスを大変気に入っているように、その逆もまた同じであった。藤丸立香がエドモン・ダンテスを気に入っているのが本人に筒抜けているように、その逆もまた同じであった。今や全てが培った時間の、重ねた信頼の、育んだ親愛の証明で、そんなものはどんなに照れくさい幸福だろう!
〜もう、ほんとさあ、うう。意味のない言葉しか出てこなくなった可愛い可愛いマスターを、これまた可愛いと思っているのが筒抜けの顔と声色で。
「さて、そろそろ夜も遅い。久方ぶりにゆっくりと休め。その安寧こそお前が掴み取ってみせた報酬だ、存分に味わうがいい」
「…ではな」
と一言。柔らかい髪をくしゃりと撫でて、それから頬にキスをして、ああもう、完敗だ。


おわり。